焼身となった脇差と「付け焼刃」― 先祖の想いを形に残す特別な刀剣研ぎ

刀剣

A Wakizashi Damaged by Fire and Tsukeyakiba — Restoring Form to Preserve Ancestral Memory

今回は「特別な理由」がある作業です

本日は、通常の研ぎとは異なる、特別な理由を持った作業をご紹介します。
御依頼者様から「先祖が大事にしてきた脇差を、どうにかお願いできないか」というご相談を頂きました。

酷い錆身──しかし、伝来が残る白鞘

刀身は非常に酷い錆身でした。
ただし、白鞘に納められており、その白鞘には御先祖様の伝来が書き記されていました

この白鞘の写真は公開できませんが、文字の一つ一つから、
この刀剣が長い年月、大切にされてきたことが静かに伝わってきました。

御依頼者様の御尊父様は早くにお亡くなりになっており、
この刀剣の存在自体を知らなかったそうです。
それが、現在の状態になってしまった理由でもありました。

作業開始後に判明した「焼身」

作業の初期段階で、重大な事実が判明します。
この脇差は、火災か何かで焼身になってしまっていたのです。

当然、このまま研ぎ進めることはできません。
すぐに御依頼者様に状況を正直にお伝えしました。

それでも「姿だけは残したい」という想い

そのお話をした時、御依頼者様は大変落胆されました。
しかし、少し考えた後、こう仰いました。

先祖が大事にしてきたものなので、
せめて姿だけは、ちゃんとした形にしておきたい。

この時点で、御依頼者様が手放すつもりがないことは明らかでした。

特別対応としての「付け焼刃」

そこで今回、特別に「付け焼刃(つけやきば)」という技法で対応することにしました。

これは、実際に刃の機能を持たない刀身に対し、
砥石で「刃があるように書く」技法です。

映りまで再現することは、さすがにやり過ぎになります。
今回はそこまでは行わず、


切っ先の帽子部分も含め、すべて砥石で形を書いています

完成後にすべて説明し、確認していただきました

完成後、御依頼者様にお渡しする際、
今回の作業内容をすべて正直にご説明し、ご確認をいただきました。

その時、御依頼者様は刀を手に取り、
涙を流して喜んでくださいました

こちらとしても、やって良かったと心から思える瞬間でした。
正直なところ、こちらまで貰い泣きしそうになりました。

白鞘の分解・錆取り・再組み立て

白鞘についても、一度分解し、こちらで錆取りと補修を行いました。
再び刀身に錆が移らないよう、最低限ですが確実な処置を施し、再組み立てしています。


Afterword / あとがきコラム

Some swords can never return to being weapons.
But they can still remain as memories, stories, and forms of respect.

刀剣の修復には、「切れるように戻す」だけではない仕事があります。
それは、人の想いを、形として残すことです。

今回のように、機能的な再生が不可能な場合でも、
正直に説明した上で、
何ができて、何ができないかをきちんと伝える。

それでも「お願いしたい」と言われた時、
職人として何ができるのかを真剣に考える。
それが、この仕事の本質だと思っています。

もし同じような境遇の刀剣をお持ちでしたら、
一度ご相談ください。
必ずしも「研ぎ直し」だけが答えとは限りません。

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