Polishing and Restoration of a Crescent Cross Spear (Mikazuki Jūmonji Yari)
今回ご紹介するのは、非常に希少性が高く、かつ研磨難易度の高い 三日月十文字槍(みかづき じゅうもんじやり)の研磨修復事例です。
十文字槍の中でも三日月形に張り出した枝刃を持つものは数が少なく、 市場に出ること自体が稀な武具として知られています。
その形状ゆえ、「研ぎを引き受けてもらえない」「断られることが多い」 という声も少なくありません。今回のご依頼主様も、 正直なところ無理だろうと半ば諦めた上でのご相談だったそうです。
ご依頼内容と武具の状態
御依頼により、三日月十文字槍の研磨を行いました。
この種の槍は、芯(中子から続く中心部)と枝刃が極めて近接しており、 わずかな研ぎの狂いでも形を崩してしまうため、非常に神経を使う作業となります。
また、刃部には刃こぼれが一箇所確認されました。 加えて、鞘および柄が欠失していたため、 今回あわせて新規製作のご依頼も承りました。
三日月十文字槍の研ぎが「難しい」と言われる理由
三日月十文字槍の最大の難点は、以下の点に集約されます。
- 枝刃と芯が近く、研ぎ代の余裕がほとんどない
- 左右の曲線バランスが崩れると一気に見栄えが落ちる
- 十文字部分の角度・肉置きのわずかな差が全体印象を左右する
そのため、多くの研ぎ師がリスクが高いとして敬遠するのも事実です。 しかし、適切な工程管理と刃物の特性理解があれば、 本来の美しさを引き出すことが可能だと私は考えています。
研磨工程と仕上がりについて
研ぎそのものは約1週間前後で完了しました。
形状を崩さぬよう、通常の直刀以上に確認工程を重ねながら進めています。
刃こぼれについても、無理な地金落としを避け、 全体の姿を損なわない修復を行いました。
その後、鞘の本漆塗り工程と柄の製作を含め、 全工程で約3週間をかけて最終仕上げとしています。
ご依頼主様のご感想
完成品をご確認いただいた際、
「ここまで仕上がるとは思っていなかった」
「しかも、想定していた研ぎ代の3分の1程度で済んだ」
と、大変ご満足のお言葉をいただきました。 武具としての迫力と、鑑賞に耐える美しさの両立ができたことは、 研ぎ師として何よりの喜びです。
研磨前後の写真
※下記の位置に研磨前・研磨後の写真を掲載してください。


あとがき|「断られた武具」でも、諦める前に
刀剣や古武具の世界では、
「形が特殊だから」「難しすぎるから」と断られてしまう例が少なくありません。
しかし、本当に大切なのは今どこまで傷んでいるか、 そしてどこまで元の姿を残せるかを正しく見極めることです。
今回の三日月十文字槍のように、 一見すると難易度が高く敬遠されがちな品でも、 適切な判断と工程を踏めば、再び命を吹き込むことができます。
もし、
- 研ぎを断られてしまった刀剣・武具がある
- 家に眠っているが、状態が分からず不安
- 修復費用が心配で相談できずにいる
そういった場合こそ、一度ご相談ください。
「できるか・できないか」も含めて、正直にお話しします。 それが、武具と真剣に向き合う者の責任だと考えています。
大切な歴史の一部を、次の世代へ。
そのお手伝いができれば幸いです。

コメント