帯広のクリーニング店でKENZOのトレーナーが水色に…寮に“テレカを売りに来るオヤジ”の思い出と、クリーニング事故の真実 / When My KENZO Sweatshirt Came Back Faded in Obihiro

エッセイ・思索

今から30年ほど前。秋の十勝平野で暮らしていたときの、少しほろ苦い思い出です。 私はその頃、帯広の郊外で寮生活をしていました。 周囲には店も少なく、不便といえば不便。そんな環境ならではの“独特の文化”もありました。

その一つが、クリーニング店のオヤジが寮まで訪問してくる文化です。 回収と配達を兼ねて、ついでにテレフォンカードを売りに来るのです。

今では想像できない話ですが、当時は携帯電話がない時代。 テレカは生活必需品で、寮生はみんな買っていました。


◆ あの“テレカ売りのオヤジ”は、ちょっとクセのある人物だった

寮の先輩から聞いた言葉は、今も覚えています。

「あの店のオヤジには気をつけろ。テレカをまとめて買うと、枚数をごまかされるから必ず数えろよ」

最初は冗談だと思っていました。 しかし、実際に買ってみると、本当に枚数が少ない。 指摘すると、とぼけ方が異様に自然で、むしろこちらが間違っているのか?と錯覚するほど。

その“困り顔の小太りの中年オヤジ”は、どこか憎めない雰囲気もあるのに、 とにかく怪しさ満点の人物でした。


◆ 母からのプレゼントだったKENZOのトレーナー

ある秋の日、私はそのオヤジにクリーニングをお願いしました。 母からもらった、深い紫が美しいKENZOのトレーナーです。

これだけは大切にしたいから――あえてクリーニングに。そんな気持ちで出した覚えがあります。


◆ 返ってきた瞬間、言葉を失った

数日後、寮に戻るとオヤジが配達に来ており、クリーニング品の袋を渡されました。 中を見た瞬間、私は固まりました。

「……え? これ、俺の服?」

あの深い紫は跡形もなく、 まるで褪せた安っぽい水色に変わっていたのです。

自分の物ではないと本気で思いました。 でもタグを確認すると、やっぱり自分のKENZO。


◆ 「こちらの地域では水洗いが普通です」と言われた

私はすぐにオヤジに言いました。 「これ、色落ちしてませんか?」

オヤジはほんの数秒だけ間を置き、

「こちらの地域では、水洗いが普通です」

……そんなわけがありません。

当時の私は九州から来たばかりで、 「北海道には北海道のルールがあるのか?」と本気で混乱しました。

しかし今思えば、ただの言い訳です。


◆ クリーニング事故としては“完全に店側の過失”だった

クリーニング業界の基準では、洗い方は洗濯表示(ケアラベル)に従うことが絶対ルール。 地域差など存在しません。

  • 水洗い不可の服を水で洗う → 100%店側の過失
  • 色抜け → 原状回復はほぼ不可能
  • 補償時は“同等品の価格”で弁償が原則

私はKENZOなので「2万円くらいです」と言いましたが、 その金額を聞いた瞬間、オヤジは煙のように話をかわし始めたのです。

結局、うまくとぼけられ、補償はされませんでした。


◆ なぜ紫が“水色”になったのか?(専門的に解説)

① 水洗いで染料が一気に流れた

紫系の染料は水・摩擦・熱に弱い場合が多く、 水洗いをすると明るい系統の色に抜けることがあります。

② 本来は“ドライクリーニング指定”の衣類だった

ドライクリーニングなら色落ちは起こりにくい。 それを水で洗えば、事故は避けられません。

③ 顔料プリントの可能性

顔料プリントで紫を表現していた場合、 水洗いは特に危険で、一気に白っぽく変色します。


◆ 良いクリーニング店を見分ける方法

  • ケアラベルを必ず確認する店は安全
  • 素材の説明やクリーニング方法を説明してくれる店は信頼できる
  • 色物・ブランド物は預かり時に“注意事項”を説明する店が優良
  • 事故が起こったら「事故報告書」を作るのが普通
  • その場で言い訳が始まる店は危険

【あとがき / Author’s Note】

あの頃の十勝平野は、広くて静かで、どこか素朴な空気が流れていました。 寮に来る“テレカ売りのオヤジ”も、その時代特有の風景の一つだったのでしょう。

しかしあの日、母からのプレゼントだったKENZOの紫が、 一瞬で水色に変わってしまったときの衝撃は、今でも忘れません。

若かった私は知識もなく、 「地域では水洗いが普通」という言葉に一瞬だけ迷いました。 でも、今ならはっきり言えます。

あれは完全におかしい。

人生には、知識がないと損をする場面があります。 だからこそ、こうした体験を言葉にして残しておく意味があるのだと思います。

English Caption:
A personal story from 30 years ago in Obihiro: a KENZO sweatshirt was washed incorrectly by a local cleaner who even sold phone cards to the dorm. Here’s what happened and what we can learn from it.

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